民泊相談で行政にモヤっとした時に読む話

民泊の行政相談で行政窓口に行くと起きがちなこと

民泊を始めようとして、 保健所や消防署などの行政窓口に相談に行ったとき、 こんな経験をしたことはないでしょうか。

  • 「それはうちでは認めていません」
  • 「前例がないので難しいですね」
  • 「とりあえず、この対応でお願いします」

一見すると、 法律に基づいた正式な判断のように聞こえますが、 実はこれらの多くは担当者の主観による「行政指導」と呼ばれるものです。

行政指導とは、 行政が相手方に対して「一定の行動を求める“お願い”や“助言”」のような位置づけのものです。 許可・不許可といった処分とは異なり、 本来は強制力を持つものではありません。

しかし、民泊のように 制度が複雑で、事業者側が知識不足になりやすい分野では、 この行政指導が事実上の強制として受け取られてしまうことがよくあります。

私自身も、 「行政が言うなら仕方ないか」 「逆らっても面倒になりそうだ」 と思い、納得できないまま受け入れてしまったことが何度もありました。

ただ、あとから調べて分かったのは、 行政指導には守らなければならないルールがあるということです。

そして、そのルールを知っているかどうかで、 行政対応の主導権は大きく変わります。

次の章では、 なぜこのような“根拠がはっきりしない指導”が生まれてしまうのか、 その理由について整理していきます。

なぜ根拠のない行政指導が生まれるのか

では、なぜ行政窓口では 「それは認めていません」 「前例がないので難しいです」 といった、根拠がはっきりしない指導が出てくるのでしょうか。

これは担当者が意地悪だから、 あるいは民泊に否定的だから、 という単純な話ではありません。

多くの場合、理由はもっと現実的です。

民泊は、 旅館業法、住宅宿泊事業法、建築基準法、消防法、 さらに各自治体の条例や運用ルールが絡み合う、 非常に複雑な分野です。

そのため、行政側であっても すべてを明確に言語化して説明できる担当者ばかりではありません。

結果として、

  • 「過去はこう対応してきた」
  • 「トラブルを避けたい」
  • 「微妙なものは一律で止めておいた方が安全」

といった内部の判断基準が、 あたかも法律そのものであるかのように伝えられてしまうことがあります。

さらに、行政指導は 「お願い」や「助言」という位置づけであるがゆえに、 書面を出さず、 口頭だけで済まされるケースが少なくありません。

この口頭のやり取りが重なることで、 事業者側から見ると 「法律で決まっていることなのか」 「単なる運用なのか」 その区別がつかなくなってしまいます。

ここで重要なのは、 行政指導そのものが悪いわけではないという点です。

問題なのは、 その指導が「法令に基づくものなのかどうか」が 説明されないまま進んでしまうことです。

そして本来、 行政指導を行う際には、 行政側が守るべきルールがきちんと定められています。

次の章では、 そのルールの正体である 行政手続条例の考え方について解説していきます。

行政指導には守るべきルールがある

行政窓口でのやり取りというと、 どうしても「相手は行政=従わなければならない」という 空気を感じてしまいがちです。

ですが、ここで一つ大切な前提があります。

行政指導は、行政が自由に行っていいものではありません。

行政が事業者に対して 「こうしてください」 「これはダメです」 といった指導を行う場合でも、 そこには守るべきルールが存在します。

そのルールを定めているのが、 各自治体が定めている行政手続条例です。

行政手続条例は、 行政が申請を受けたり、指導を行ったりする際に、 どのような手順で、どのような説明をすべきか を定めたものです。

ポイントは、 この条例が「事業者を縛るためのもの」ではなく、 行政の行為をコントロールするためのルールだという点です。

たとえば行政が行政指導を行う場合、

  • それがどの法令に基づく指導なのか
  • どの要件に基づいているのか
  • なぜその指導が必要なのか

こうした点を、 相手方に分かる形で示すことが求められています。

逆に言えば、 これらが説明されないまま行われる指導は、 「お願い」や「内部ルールの共有」を超えて、 不適切な行政指導になってしまう可能性があります。

ここで誤解してほしくないのは、 行政と対立することが目的ではない、という点です。

大切なのは、 法令に基づく判断なのかを整理すること

その整理ができるだけで、 話は感情論から事実ベースに変わります。

次の章では、 この行政手続条例で 具体的にどのようなポイントが定められているのかを、 もう少し噛み砕いて見ていきます。

行政手続条例で定められている重要なポイント

行政手続条例と聞くと、 少し難しそうに感じるかもしれませんが、 民泊事業者の立場で押さえておくポイントは実はシンプルです。

行政が「行政指導」を行う場合、 多くの自治体の行政手続条例では、 共通して次のような考え方が定められています。

それは、 行政指導は、根拠と理由を明らかにした上で行われなければならない ということです。

具体的には、

  • どの法令を根拠にしているのか
  • その法令のどの条文を前提にしているのか
  • なぜ今、その指導が必要だと判断したのか

こうした点を、 相手方に分かる形で示すことが求められています。

ここで重要なのは、 「説明してください」とお願いすること自体が、 特別な要求ではないという点です。

行政手続条例は、 事業者が行政に対して 強く主張するための武器ではありません。

むしろ、 行政と事業者の認識をすり合わせるための 共通ルールのようなものです。

そのため、

  • 「これは法令に基づく指導ですか?」
  • 「どの条例・法律が根拠になりますか?」

と確認することは、 行政を困らせる行為でも、 失礼な行為でもありません。

ただ手続きを整理しているだけです。

そしてこの整理ができると、 それまで曖昧だった話が、

  • 法令に基づく判断なのか
  • 単なる主観での考え方なのか

自然と切り分けられていきます。

次の章では、 こうしたルールを踏まえた上で、 実際にどういう聞き方をすればいいのかを、 より実務的な視点で整理していきます。

実際にどう確認すればいいのか

ここまで読んで、 「理屈は分かったけれど、実際の窓口ではどう聞けばいいのか」 と感じている方も多いと思います。

結論から言うと、 大切なのは強く主張することではなく、整理することです。

行政窓口で、 「それは認めていません」 「そのやり方はできません」 と言われた場合、 まずは次のように確認してみてください。

「これは行政指導という理解でよろしいでしょうか?」

この一言で、 話の性質がはっきりします。

もし行政側が 「はい、行政指導です」 と答えた場合は、 次にこう続けます。

「どの法令や条例を根拠にした指導なのか、教えていただけますか?」

ここでポイントなのは、 相手を追い詰めない言い方をすることです。

「根拠を出してください」ではなく、 「教えてください」と聞く。 これだけで、対応の空気は大きく変わります。

もしその場で明確な回答が出ない場合でも、 無理に結論を出す必要はありません。

「確認していただいて、後日教えていただくことは可能ですか?」

と一度持ち帰ってもらうだけでも、 その指導が本当に法令に基づくものなのか、 整理されることが多いです。

このやり取りを通じて、 行政側から

  • 具体的な条文が示されるのか
  • 「運用上そうしている」という説明になるのか

が自然と分かれてきます。

それだけでも、 事業者側は 「従うべき義務なのか」 「協力の範囲なのか」 を冷静に判断できるようになります。

次の章では、 この考え方を踏まえて、 あくまで一例として 新宿区のケースを紹介します。

【事例】新宿区の場合(行政手続条例第33条)

ここまでお伝えしてきた内容は、 特定の自治体だけに当てはまる話ではありません。

行政指導に関する基本的な考え方は、 ほとんどの自治体で共通しています。

その一例として、 東京都新宿区のケースを見てみます。

新宿区では、 行政指導について 新宿区行政手続条例 第33条で定められています。

この条文では、 行政が行政指導を行う際には、 その指導の内容や趣旨を、 相手方に分かるように示すことが求められています。

つまり新宿区の場合でも、

  • どの法令や条例を前提にしているのか
  • なぜその指導が必要だと判断したのか

こうした点を説明せずに、 「認めていません」 「できません」 とだけ伝える対応は、本来想定されていません。

実際の窓口では、 この条文名や条文番号を いきなり強く出す必要はありません。

ですが、

「これは行政指導という理解でよろしいでしょうか」
「根拠となる法令や条例を教えていただけますか」

といった確認をすると、 結果的にこの条例の趣旨に沿った対応になります。

重要なのは、 新宿区だから特別なのではなく、 新宿区の条例が 「行政手続条例の一般的な考え方」を 分かりやすく示しているという点です。

他の自治体でも、 条文番号や名称は違っていても、 同じ趣旨の規定が置かれているケースがほとんどです。

行政対応で行き詰まったときは、 「その自治体の行政手続条例に、行政指導についてどう書かれているか」 を一度確認してみるだけで、 状況が整理されることがあります。

まとめ|知っているだけで対応は変わる

民泊の行政相談では、 どうしても「行政が言うなら従うしかない」と感じてしまいがちです。

ですが、実際には、 行政が行う「行政指導」には、 守るべきルールが定められています。

そのルールを定めているのが、 各自治体の行政手続条例です。

行政指導は、 法令に基づく処分ではなく、 あくまで指導や助言という位置づけです。

だからこそ、 その指導が

  • どの法令を根拠にしているのか
  • なぜその指導が必要なのか

を、行政側が説明する必要があります。

大切なのは、 行政と対立することでも、 無理に主張を通すことでもありません。

話を整理することです。

「これは行政指導ですか?」 「根拠となる法令を教えてください」

この二つを確認できるだけで、 行政対応は感情論から事実ベースに変わります。

新宿区の事例で紹介したように、 条例の条文を理解しているだけで、 対応の空気が変わる場面も少なくありません。

民泊は、 制度が複雑だからこそ、 知識の差がそのままリスクの差になります。

行政手続条例は、 特別な人のための法律ではありません。

知っている事業者が、不利にならないための最低限のルールです。

これから行政窓口に相談に行く方は、 ぜひ一度、 その自治体の行政手続条例に 「行政指導」についてどう書かれているかを 確認してみてください。

それだけでも、 民泊事業の進め方は、 きっと変わってくるはずです。

この記事のQ&A

Q1. 行政に「これは指導ではなくルールです」と言われた場合はどうすればいいですか?

まずは、
その「ルール」がどの法令や条例に基づくものなのかを確認しましょう。

「そのルールは、どの法令・条例に基づいて定められているものですか?」

と聞くだけで十分です。
本当に法令に基づくものであれば、条文を示してもらえますし、
運用や内部ルールであれば、その旨が明らかになります。

Q2. 行政手続条例を出すと、印象が悪くなりませんか?

出し方次第です。

条文番号を強く主張したり、
「違法ですよね?」と詰める言い方をすると、
空気が悪くなることはあります。

一方で、

「念のため整理したいのですが」
「行政指導という理解で合っていますか?」

という確認ベースの聞き方であれば、
実務上トラブルになるケースはほとんどありません。

Q3. 行政指導には必ず従わなければならないのですか?

行政指導は、
許可・不許可といった処分とは異なり、強制力を持つものではありません

ただし、
従わなかった場合に
別の法令上の問題が生じる可能性があるかどうかは、
個別に確認が必要です。

そのため、
「従う・従わない」を即断するのではなく、
まずは根拠を整理することが重要です。

Q4. 条文をその場で示してもらえなかった場合はどうすればいいですか?

その場で結論を出す必要はありません。

「確認していただいて、後日ご回答いただくことは可能ですか?」

と伝え、一度持ち帰ってもらうのが現実的です。

この時点で、
その指導が本当に法令に基づくものかどうかが、
内部で整理されることも少なくありません。

Q5. 新宿区以外の自治体でも同じ考え方で大丈夫ですか?

はい。
条文番号や表現は自治体ごとに異なりますが、
行政指導に関する基本的な考え方はほぼ共通しています。

各自治体の例規集で
「行政手続条例」「行政指導」と検索すると、
同様の趣旨の条文が見つかるケースがほとんどです。

Q6. 行政手続条例はどこで確認できますか?

多くの自治体では、
公式サイトの「例規集(条例・規則)」から確認できます。

「◯◯区 例規集 行政手続条例」
と検索すると、比較的簡単に見つかります。

Q7. それでも納得できない場合はどうすればいいですか?

感情的に対立するのではなく、

  • 書面での回答を求める
  • 上席や別部署に確認を依頼する
  • 専門家に相談する

といった段階的な対応がおすすめです。

多くの場合、
「根拠を整理する」だけで解決することも少なくありません。